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静岡地方裁判所沼津支部 昭和44年(ワ)487号 判決

原告(昭和四四年(ワ)第四八七号・昭和四五年(ワ)第二七号)

大久保清一

被告(昭和四四年(ワ)第四八七号)

鈴木初治

ほか一名

被告(昭和四五年(ワ)第二七号)

志田敞巨

ほか一名

主文

一  被告鈴木初治、同鈴木章は原告に対し、各自金一、六九五、九六一円およびこれに対する昭和四五年二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告内田利治は原告に対し、金一、六六八、九六一円およびこれに対する昭和四五年二月一六日から支出ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の右被告らに対するその余の請求および被告志田敞巨に対する請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担、その余を被告志田敞巨をのぞく被告らの負担とする。

五  本判決中原告勝訴の部分に限り、原告が被告らに対し共同して金四〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

(一)  被告らは原告に対し各自金三、七二五、一二八円、およびこれに対する被告鈴木初治(以下、被告初治という。)、同鈴木章(以下、被告章という。)について昭和四五年二月一一日から、被告志田敞巨(以下、被告志田という。)、同内田利治(以下、被告内田という。)について訴状(昭和四五年(ワ)第二七号事件)発達日の翌日から、支払ずみまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  担保を条件とする仮執行の宣言。

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  被告章は自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和四三年一月三日午後三時二五分ころ、被告志田が登録所有し、被告内田がこれを買い受け右被告両名にて自己のために運行の用に供していた普通乗用自動車(スポーツカー、静岡五ゆ一〇二二号)に被告内田を同乗させて国道二四六号線を沼津駅方面から御殿場市方面に向けてガソリンが少なかつたので、ガソリンスタンドを探しながら運転し、沼津市大岡字六反田二二一九番地の一地先に差しかかつた際、同乗者の被告内田が道路脇の桜井ガソリンスタンドを見つけ、「空いている」と知らせたが、速度が早や過ぎ三〇メートル位通り過ぎて停車し、右桜井ガソリンスタンドに後退せんとしたが、このような場合、自動車運転者としては場所は交通量の激しい国道二四六号線上であり車両はスポーツカーのため後方の窓は小さくて後ろの見通しが悪かつたうえ、いわゆる西日の午後の直射日光が後方から当つて後ろが見にくかつたので、後退の合図をするばかりでなく、同乗者もいたのであるから同人を下車させて誘導させ、後方を注視して周囲の安全を確認しながら後退すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然後退した過失により折柄自車の後方から直進して来ていた原告運転の五〇CC原付自転車に気づかず、自動車の後部をこれに衝突させて原告を路上に転倒させ、よつて原告に対し、事故直後から昭和四三年一一月一三日まで一〇か月一〇日間の入院加療を要し、なお今日に至るも未だ快ゆしないような右脛腓骨複雑骨折、右腓骨神経麻痺遷延仮骨形成の重傷を負わせたものである。

(二)  被告らは原告に対し、前記交通事故により原告が被つた損害を、つぎのとおり賠償すべき義務がある。すなわち、

1(1) 被告章は前記業務上過失により原告の損害を賠償すべき義務がある。

(2) 被告初治は被告章の父で、昭和四四年三月上旬、原告の代理人である訴外保坂盈、同植松七之助に対し事故当時未成年の子が仕でかしたことなので右交通事故について父として全面的に損害を賠償する旨の約束をした。

2 被告志田、同内田は自動車損害賠償保障法三条により原告の受けた傷害によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

(三)  前記交通事故により原告の被つた損害は、つぎのとおりである。

(1) 原付自転車破損による損害 金二七、〇〇〇円

(2) 東医院の入院治療費 金二七、五七三円

(3) 込宮医院の入院治療費 金二一七、七四〇円

(4) 付添い家政婦代(昭和四三年一月四日から同年四月二二日まで) 金一五五、四〇〇円

(5) 鉱泉療養費(昭和四四年二月五日から同年一一月二九日まで一日金二〇〇円宛一九七日分) 金三九、四〇〇円

(6) 入院中の牛乳、ヤクルト代 金一三、〇八四円

(7) 入院中家族が看護のため病院に通つた車代(ガソリン代を含む。) 金三七、五〇〇円

(8) 入院中の布団、敷布、毛布代等 金一七、二〇〇円

(9) 保険者(三島市)に返納した保険者負担金 金一九五、〇七〇円

(10) 原告は事故前一か月金五〇、〇〇〇円の収入があつたのに、事故後二年一か月間全然稼動することができなかつたので、その所得減金一、二五〇、〇〇〇円

(11) 原告は今後二年間は後遺症のため広告取り等の稼動能力が激減し、事故前の収入一か月金五〇、〇〇〇円の半額金二五、〇〇〇円は所得が減少するので、その得べかりし利益の喪失分 金五五八、三〇〇円

(12) 慰謝料

原告は本件事故による重傷のため長い期間苦痛に堪えて入院加療を受け、退院後も鉱泉療養等を続けて働くことができず、今日未だ右腓骨神経領域に知覚鈍麻と足関節の自動背屈運動が制限され健側との差は15度認められ、歩行に際し跛行あり、下肢の三大関節中の一関節に機能障害を残し、いわゆる右足は冷たく冷却している。その精神的苦痛、打撃は絶大で、左記の各慰謝料を相当とする。

(イ) 受傷後一か年間の慰謝料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

(ロ) 受傷後二年目の療養中の一か年間の慰謝料 金五〇〇、〇〇〇円

(ハ) 今後前記後遺症による慰謝料 金五〇〇、〇〇〇円

(13) 本件損害賠償請求には専門的知識技術を必要とし、弁護士を訴訟代理人として訴求する手数料金二〇、〇〇〇円、謝金二五〇、〇〇〇円合計必要経費の弁護士料 金二七〇、〇〇〇円

(四)  原告は、本件事故による損害に関し、自動車損害賠償責任(以下、自賠責という。)保険金五〇〇、〇〇〇円、後遺障害保険金三五三、一三九円、被告章からの見舞金二三〇、〇〇〇円を受取つているので、自賠責の保険金五〇〇、〇〇〇円は前項(10)の所得減金一、二五〇、〇〇〇円の損害金の一部内入金に充当し、後遺障害保険金三五三、一三九円は前項(11)の今後二年間の所得半減金五五八、三〇〇円の一部内入金に充当し、見舞金二三三、〇〇〇円は前項(12)(イ)の慰謝料の一部内入金に充当する。したがつて、原告の被つた損害残は金三、七二五、一二八円である。

二Ⅰ  被告初治、同章の答弁および抗弁

(一) 原告主張の請求原因事実中、

1 第一項のうち、原告主張の日時ころ被告章が普通乗用自動車に被告内田を同乗させて国道二四六号線を沼津駅方面から御殿場市方面に向けてガソリンスタンドを探しながら運転し、原告主張の場所に差しかかつた際同乗者の被告内田が桜井ガソリンスタンドを見つけ「空いている」と知らせたこと、および原告運転の原付自転車と被告章運転の右自動車の後部が衝突して原告が負傷したことを認めるが、その余の事実は負傷の程度を含めてすべて争う。

2 第二項の1の(1)は争う、同(2)は否認する。

3 第三項は争う。すなわち、事故後原告は前年度の所得は二四万円ないし二五万円であつた、と述べ、妻の実家から補助されていたことがあるので所得額は月金五〇、〇〇〇円ではないのみならず、原告主張の(10)の期間、(11)の所得減少の割合ならびに期間、(12)の慰謝料額はいずれも過大である。

4 第四項のうち、原告主張の保険金および見舞金を受領したことを認めるが、その余を争う。

(二)1 本件事故は、原告の二重の運転上の過失に基づくものである。すなわち、被告章は乗用車の給油のため後方の路上を注視し合図をしつつ時速五ないし六キロメートルの低速度で後退中、後方より進行してきた原告運転の原付自転車が、未だ午後三時二五分で明るく、かつ現場は見透しが良く幅員九メートルで場所的にも十分ゆとりがあり、後退しても他車の正常な交通を妨害する虞れはない状況にあるのに、衝突の直前に俄かに視界に入つたのでブレーキを踏んで停車したが、そこへ原告の原付自転車が衝突してきたのである。原告が通常の注意をもつて運転すれば安全に通過することができるのに、前方不注視のため被告章運転の乗用車の動静を見誤つて接近してからこれが後退するのに気付き、しかも慌ててハンドルを左に切つたため本件事故が発生したものである。

2 仮に被告章に過失があるとしても、原告の右過失との割合は原告がはるかに大きく被告章の過失は小さいから、前記の保険金、見舞金によつて原告の損害部分は十分に補填されており、本訴請求は理由がない。

Ⅱ  被告志田、同内田の答弁および抗弁

(一) 原告主張の請求原因事実中、

1 第一項に対する被告志田の答弁

(1) 被告志田が原告主張の自動車の登録名義を有していたこと、および被告内田が被告志田より右自動車を買受けていたことを認めるが、両名で自己のために運行の用に供していたことを否認し、その余の事実は不知。

(2) 被告志田は、昭和四二年五月ころ右自動車を代金二〇〇、〇〇〇円で被告内田に売渡し、売渡と同時に引渡を完了し、以後は被告内田においてこの自動車を専用して自己のために運行の用に供していたものである。したがつて、本件事故発生当時、登録名義は被告志田の名義ではあつたが運行供用者ではない。

2 第一項に対する被告内田の答弁

被告内田は原告主張の自動車を被告志田より買受け自己のために運行の用に供していたこと、原告主張の日時ころ被告章にこれを貸与して同被告が操縦し被告内田同乗のうえ国道二四六号線を沼津駅方面より御殿場市方面に向け進行中桜井ガソリンスタンド前に停車したこと、後方から原告が原付自転車を運転して来て右自動車の後部に追突したこと、および原告が傷害を受けたことは認めるが、原告の傷害の部位程度は不知、その余の事実を否認する。

3 第二項の2は否認する。

4 第三項は全部不知。

5 第四項のうち、自賠責の保険金五〇〇、〇〇〇円、後遺障害保険金三五三、一三九円、および被告章から見舞金二三〇、〇〇〇円を原告が受取つたことは認めるが、その余は不知。

(二) 本件事故は、原告が注意義務を怠つたために発生したものである。すなわち、

1 被告章は、本件自動車を運転して桜井ガソリンスタンドを約三メートル位通り過ぎたので停車し、ゆつくりバツクして自動車後部より右スタンド構内へ右回転しながら入つて行つて自動車の車首が舗道をはずれる位まで入構した矢先、後方より進行してきた原告運転の原付自転車が自動車後部に衝突したものである。したがつて、原告が前方を注視して運転していたならば、前車が一旦停車したうえゆつくりバツクしてガソリンスタンドに入構する状態を発見して直ちに右に少しハンドルを切り車道をなんらの支障もなく通過することができた筈である。本件衝突は原告が前方を注視せず本件自動車に近接するまでこれに気付かず衝突直前に本件自動車の後退に気付き右にハンドルを切るべきを慌ててハンドルを左に切つて舗道に乗込みスタンドに入構中の本件自動車に衝突したものである。

2 仮に、原告が前方注視義務を怠らなかつたというならば、車間距離を保持しないで前車に追随した原告の過失により本件衝突が発生したものである。

3 仮に、本件衝突は被告章の過失により発生したとしても、原告の右過失もこれに競合して発生したものであるから、過失相殺を主張する。

三  原告の認否

(一)  本件事故について原告に過失があつたとの被告らの抗弁事実を否認する。

(二)  また、被告らの過失相殺の抗弁事実も否認する。被告章の本件自動車の運転は、道路交通法二五条の二の規定に違反した運転行為であつた。

第三証拠〔略〕

理由

まず、原告主張の不法行為について判断する。

〔証拠略〕を合わせて考えると、被告章は自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四三年一月三日午後三時二五分ころ、普通乗用自動車(ホンダスポーツ四〇年式・静岡五ゆ一〇二二号・以下、本件普通乗用自動車という)を運転して国道二四六号線を沼津駅方面から御殿場市方面に向つてガソリンが少なかつたので、ガソリンスタンドを探しながら進行中、沼津市大岡字六反田二二一九番地の一地先に差しかかつた際、助手席に同乗していた被告内田が道路脇の桜井ガソリンスタンドを見付け、「開いている」と知らせたので、同スタンドの端から三メートル程通り過ぎて停車し、右桜井ガソリンスタンドに後退しようとしたが、このとき恰度午後の西日の直射日光が後方から当つて後ろが見にくかつたのであるから、このような場合、自動車運転者としては、後退の合図をするのみでなく、同乗者の助けも借りて後方を注視して周囲の安全を確認しながら後退すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、後退したため、折柄自車の後方から直進して来ていた原告運転の原付自転車に気付かず、自動車の後部をこれに衝突させて原告を転倒させ、よつて、原告に対し事故直後から昭和四三年一一月一三日まで一〇か月一〇日間の入院加療を要する右脛腓骨複雑骨折、右腓骨神経麻痺遷延仮骨形成の傷害を負わせたことが認められ、右認定に反する被告鈴木章の供述部分は前掲各証拠に認らして採用することができず、また右認定をくつがえすにたりる的確な証拠はない。

しかして、右の事実によれば、被告章は、原告に対し右不法行為によつて原告に被らしめた損害を賠償すべき義務があることは明らかである。

そこで、被告初治が原告に対し、被告章の右不法行為に基づく損害を賠償することを約束したか否かを判断する。

〔証拠略〕によれば、被告初治は被告章の父親であるが、昭和四四年三月ころ、本件交通事故の損害賠償問題について、原告の代理人として訴外植松七之助、同保坂盈が被告初治方を訪れた際、右訴外人らに対し、被告章は自分の息子で未成年だから親の自分が責任を持つが被告章にも働いてもらつて共同して事故の損害を賠償する旨約定したことが認められ、右認定に反する被告鈴木初治の供述部分は前掲各証拠に照らして採用することができず、右認定をくつがえすにたりる証拠はない。

そして、右の事実によれば、被告初治は原告に対し被告章の前記不法行為に基づく損害について同被告と連帯してその損害額を負担することを約定したものというべきである。

つぎに、被告志田が、本件普通乗用自動車の運行供用者であるか否かを判断する。

原告は被告志田が本件普通乗用自動車を登録所有し被告内田が同人からこれを買受け両名で自己のために運行の用に供していた者であると主張し、被告志田は登録名義人であつても既に他人にその自動車を売渡し買主が買受けた自動車の使用権、収益権を有する場合には買主が運行供用者であつて、売主は形式上所有登録名義を有していても運行供用者ではないと抗争するので、この点について検討する。

被告志田が本件普通乗用自動車の登録名義を有していたこと、および被告内田が被告志田より右自動車を買受けていたことについては当事者に争いがない。

〔証拠略〕によれば、被告志田は昭和四一年八月ころ、被告内田に対し本件普通乗用自動車を金二〇〇、〇〇〇円で売り渡し、その売買代金の支払方法は頭金四〇、〇〇〇円、毎月一〇、〇〇〇円ずつ支払うこととし、右自動車を被告内田に引き渡し、その後も右自動車の登録名義は前所有者の被告志田のままになつていたが右引渡後は被告内田が右自動車を使用していたことが認められる。

しかして、右の事実によれば、被告志田は本件普通乗用自動車を昭和四一年八月ころ被告内田に割賦払いの方法で売り渡し、同自動車の登録名義はそのままになつていたが、右売買後は被告内田が本件普通乗用自動車の所有者としてこれを使用していたのであるから、既に本件普通乗用自動車を被告内田に売渡して登録名義のみを有していた被告志田は右自動車の運行による利益の帰属者でないことは明らかであるのみならず、その運行についての支配もないというべきである。そうすると、被告志田は本件普通乗用自動車の運行供用者ということはできないから、原告の被告志田に対する本訴請求は理由がないというべきである。

そして、被告内田が本件普通乗用自動車を自己のために運行の用に供していたことについては当事者間に争いがない。

そうしてみると、原告に対し、被告初治、同章は連帯して前記不法行為によつて原告に被らしめた損害を賠償すべき義務があり、被告内田は自動車損害賠償保障法三条により原告の前記傷害によつて生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。

そこで、つぎに、原告の被つた損害について判断する。

まず、原告の受けた傷害による損害についてみるに、〔証拠略〕によると、事故当日の昭和四三年一月三日と翌四日沼津市高沢町六の八東医院の入院治療費として、金二七、五七三円、ならびに〔証拠略〕によると、昭和四三年一月四日から同年一一月一三日まで入院加療を要し、沼津市上土字下柳ケ坪二八の七〇込宮病院の入院治療費として、金二一七、七四〇円、〔証拠略〕によると、昭和四三年一月四日から同年四月二二日までの付添い家政婦代として、金一五五、四〇〇円、〔証拠略〕によると、昭和四四年二月五日から同年一一月二九日まで鉱泉療養のため入浴料として一日金二〇〇円で一九七日分、金三九、四〇〇円、〔証拠略〕によると、入院中の牛乳、ヤクルト代金として、金一三、〇八四円、〔証拠略〕によると、入院中原告の家族が看護のため病院に荷物を運んだりして通つた自動車の燃料費等、金三七、五〇〇円、〔証拠略〕によると、入院中に使用するための布団、敷布、毛布代等として、金一七、二〇〇円、〔証拠略〕によると、本件交通事故による受傷につき前記込宮病院で三島市国民健康保険により受診したため保険者である三島市より保険者負担金の返納を求められたので昭和四四年三月二六日金一九五、〇七〇円を、それぞれ原告が支払つていることが認められ、右事実によれば、原告は右各同額の損害を被つたものというべきである。

また、原告主張の所得減についてみるに、〔証拠略〕によると、原告は昭和四二年の年収として金六〇〇、〇〇〇円を得ていたが、本件事故のため、昭和四三年一月三日から昭和四五年三月ころまで稼働できなかつたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕に照らして採用できず、右認定をくつがえすにたりる的確な証拠はない。してみると、原告は本件事故前一か月平均金五〇、〇〇〇円の収入があつたものとみるべきであるから、稼働できなかつた二年一か月間の所得減は金一、二五〇、〇〇〇円となり、同額の損害を被つているというべきである。

さらに、原告の後遺症による得べかりし利益の喪失についてみるに、〔証拠略〕によると、原告は昭和四四年二月一五日の時点において労働者災害補償保険の級別一二級に該当する後遺症があると診断され、昭和四五年四月から月刊紙発行の仕事に従事し広告取りをしているが急いで歩くとき右足を引きずるようになることが認められ、このようなことを考えると、原告は今後二年間は後遺症のため広告取り等の稼働能力が減少し、事故前の収入一か月金五〇、〇〇〇円の少なくとも一割が減少するとみるべきであるから、その得べかりし利益の喪失分をホフマン式計算より算出すると、金一一一、六八七円となる。

さらに、進んで、原告主張の慰謝料についてみるに、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故のため昭和四三年一月三日から同年一一月一三日まで入院加療を要し、入院当初四か月間は右足にギブスをはめたままで過ごすことを余儀なくされ、昭和四四年二月一五日の時点で右腓骨神経領域に知覚鈍麻と足関節の自動背屈運動がやゝ制限され、健側との差は一五度認められ、歩行に際し跛行があり、下肢の3大関節中の1関節に機能障害を残していると診断され、今日右足は冷たく冷却して交差点などを急いで歩くときには自然に跛行するような歩き方になることが認められ、右入院加療の期間、状況や後遺症など諸般の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料として、金一、二〇〇、〇〇〇円が相当と考える。

つぎに、物的損害としての原付自転車破損による損害についてみるに、〔証拠略〕によると、原告は本件事故のため自己の乗つていた原付自転車五〇CCの燃料タンクの右側がくぼんだため、昭和四三年一一月一五日ころ、金二七、〇〇〇円で中古車のホンダスーパーカブ一台を購入したことが認められ、右の事実によれば、原告は右同額の損害を被つたものというべきである。

ところで、原告は、本件事故による損害に関し、自賠責の保険金五〇〇、〇〇〇円、後遺障害保険金三五三、一三九円、被告章からの見舞金二三〇、〇〇〇円以上合計金一、〇八三、一三九円を受取つていることを自認しているので、前記認定の各合計損害額から控除されるべきである。

そこで、さらに、被告ら主張の過失相殺について判断する。

冒頭に認定のとおり、被告章は本件普通乗用自動車を運転してガソリンスタンドを探しながら進行中、沼津市大岡字六反田二二一九番地の一地先で桜井ガソリンスタンドを見付け、同スタンドを三メートル程通り過ぎて停車したのであるが、〔証拠略〕によると、国道二四六号線の同所付近道路は直線のアスフアルト舗装で見とおしはよく、原告は原付自転車を運転して被告章の右自動車と同一方向に道路左端から一メートル位の所を時速約二〇キロメートルの速度で走行中、前方およそ二〇メートル先に被告章運転の普通乗用自動車が停車しているのに気付いたが、このような場合、原付自転車の運転者としては、進行道路上に停車している自動車の動向に十分注意して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、直ぐ後退しないものと速断しそのまま進行したため、被告章運転の車が急に後退して接近したので危険を感じハンドルを左に切つてブレーキをかけたが間に合わず、右自動車の後部バンバーに衝突されて転倒したことが認められ、右事実によれば、本件事故は被告章の過失と原告の右過失とが競合して発生したものというべきであり、右両者の過失の態様程度からみて、過失相殺として原告の損害額から三割減額するのを相当と考える。

そうすると、結局原告に対し、被告初治、同章は金一、五四五、九六一円を、被告内田は右金額から物的損害である原付自転車破損による損害金二七、〇〇〇円を除く金一、五一八、九六一円を賠償すべき義務があるというべきである。

しかして、弁護士費用についてみるに、交通事故の被害者が自己の権利擁護のため訴提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その事案の難易、認容された額などを考慮して相当と認められる額の範囲内において弁護士費用が損害として請求することができるものと解すべきところ、本件事案の態様などからみて、前記賠償額のほゞ一割の金一五〇、〇〇〇円が相当と考える。

そうしてみると、原告に対し、被告初治、同章は各自金一、六九五、九六一円およびこれに対する本件訴状訂正申立書送達の日の翌日である昭和四五年二月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告内田は金一、六六八、九六一円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年二月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う債務を負担しているというべきである。

よつて、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、原告の右被告らに対するその余の請求および被告志田敞巨に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田耕生)

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